今回から新シリーズ、「仏滅後の仏教」をお届けします。
ブッダ亡きあと、仏教教団はどのように変化していったのか、その歩みをたどっていきます。
現代の日本仏教を見渡すと、一口に「仏教」といっても実に多くの宗派があります。浄土真宗、浄土宗、禅宗系では臨済宗や曹洞宗、さらに天台宗や真言宗など、挙げればきりがありません。
なぜ、これほど多くの宗派が生まれたのでしょうか。
このシリーズをお聴きいただければ、その背景が見えてくるはずです。
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前回のシリーズでは、ブッダが入滅されるところまでお話ししました。
ブッダの最期を看取ったのは、付き人のアーナンダ尊者とアヌルッダ尊者でした。アヌルッダ尊者は、修行のしすぎで視力を失ったと伝えられる人物で、以前アフタートークでも触れました。
ブッダは夜中に亡くなります。夜が明けると、アーナンダ尊者はクシナーラーに住むマッラ族にその死を告げました。
知らせを受けたマッラ族の人々は、香や花輪、楽器を用意して供養を行います。
香・花・音楽による供養――
これは、現代の仏式葬儀にも通じるものです。いわば、ブッダの葬儀こそが、私たちの葬儀の原型(オリジン)なのです。
マッラ族は六日間にわたり遺体を供養し、七日目に荼毘に付すことにしました。しかし、なぜか火がつきません。
その頃、マハーカッサパ長老はクシナーラーへ向かう途中、道端で休憩していました。そこへ、一輪の花を持った男性が歩いてきます。
「私の師、ブッダをご存じですか?」
そう尋ねると、男性は答えました。
「はい。しかしブッダは先日亡くなられました。私はその葬儀でこの花をいただいたのです。」
こうしてマハーカッサパは、ブッダの死を知ります。
現代でも葬儀の際に花を持ち帰る風習がありますが、その起源を思わせる場面です。
マハーカッサパはブッダ十大弟子の一人で、後世の禅宗では法を継いだ人物と伝えられます。ただし、史実としては慎重に見る必要があります。ブッダは「法と律を師とせよ」と説き、特定の後継者を指名してはいないからです。
とはいえ、その後、マハーカッサパが教団の中心的存在となっていくのは確かです。
彼がクシナーラーに到着し、うやうやしく遺体を礼拝したそのとき、それまで燃えなかった遺体に火がついたと伝えられています。
まるで、彼の到着を待っていたかのように。
この描写には、後世の意図も感じられます。
火葬後に残ったお骨を、パーリ語で「サリーラ」、サンスクリット語で「シャリーラ」といいます。
「仏舎利」という言葉はここから来ています。ちなみに、お寿司の「シャリ」も同語源です。
この仏舎利をめぐって、ブッダゆかりの部族が所有権を主張し、争いが起こります。
なぜ争いになるのでしょうか。
もちろん、ブッダへの尊敬の念もあります。しかし、それ以上に大きな理由がありました。
仏舎利を供養すれば、未来に必ず良い果報がもたらされると信じられていたのです。
いわば、確実に利益が得られる「未来への投資」です。
そうであれば、自分たちの土地に仏舎利を迎えたいと思うのは自然なことです。
現代でいえば、自治体が企業誘致を行うようなものです。企業が来れば雇用が生まれ、経済が潤い、税収も増える。それと同じ発想です。
争いは一触即発となりましたが、ドーナというバラモンが仲裁に入り、仏舎利は八つに分けられました。これを「舎利八分」といいます。
実は、このとき分けられたとされる仏舎利の一部が、日本に伝わっています。
名古屋市の覚王山日泰寺に納められています。
その経緯を簡単にご紹介します。
ブッダの遺骨は出身部族シャーキャ族にも分けられました。しかし、インドで仏教が衰退する中、その所在は長らく不明となります。
19世紀末、インドのピプラーワーで、イギリス人ウィリアム・ペッペによって、シャーキャ族が埋葬したと推定される遺骨が発掘されました。これがタイ王室に献上されます。
その一部を、日本公使・稲垣万次郎が分与を願い出て許可されました。
しかし問題が生じます。
日本には多くの宗派があります。どこに安置するのか。
既存宗派の寺院では不公平になるため、新たに寺院を建立することが決まりました。
仏舎利が日本に到着したのは長崎。数千人が出迎え、合掌したと伝えられます。
京都へ向かう沿道も、大雨にもかかわらず群衆であふれていました。
大阪の四天王寺で法要が営まれ、京都駅到着時には108発の花火が打ち上げられ、各寺院で鐘が打ち鳴らされました。
その後も安置場所をめぐって議論が続きましたが、最終的に名古屋の覚王山日泰寺に落ち着き、現在に至ります。
次回予告
『大パリニッバーナ経』はここで幕を閉じます。
しかし物語は続きます。
別の文献では、アーナンダ尊者がマハーカッサパ長老から叱責を受ける場面が描かれます。
次回は、そのお話をいたします。
※この記事は音声コンテンツをテキスト化したものになります。以下のブレーヤーよりお聴きいただけます。
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